正則と三成









小規模な戦闘中、加藤清正は前線で本来見る人間がいることに気がついた。

「三成、何やってんだ?」

「見てわからないのか、戦闘中だ」

その清正の言葉に三成は平然と答えた。

相変わらず、かわいくねーな。と清正は思いながらも、こういう奴だと諦める。

「お前、後方支援だろ。前線にいて大丈夫なのか?」

今回の三成の担当は後方支援、いわば本来の三成の得意とするものだ。

「前線を崩さないようにするのも、後方支援の役目だ」

敵兵を殴りつけながら、三成は言葉を返した。

清正は間違いじゃないと納得しつつ、同じように敵兵をなぎ倒す。

「それに、左近もいる」

すぐ後ろにほとんど護衛になっている左近の姿があった。

「相変わらずだな、お前も・・・」

ひとりつぶやいた清正に左近が口を挟んだ。

「殿を守るのも俺の仕事なんですがね・・・今回はちょっと厄介でしてね」

「おい、左近。それ以上いうな!」

その左近の言葉に三成はあわてて制したが、清正は何か裏があると感づいた。

その清正の表情を読み取った三成は面倒くさいといった顔で話始めた。



ことの始まりは三日前、大阪城でたまたま、福島正則に出会った。

秀吉のいる大阪城なのだから、福島正則と会っても何の問題もない。

そこでたまたま、三日後の今回の小規模な戦いの話になった。

「正則、此度の戦ではバカみたいに敵陣に突っ込むなよ、後方支援の俺が大変だし、色々面倒だ」

「後方支援は後ろで踏ん反り変えってろよ、誰もお前に助けてくれって言ってねーし」

前回の戦で正則は敵陣に突っ込み、それがきっかけとなって勝利したのはいいが、

後方支援の三成としてはそれをフォローするのがはっきりいって面倒だった。

戦場なので臨機応変に動き、対応するのはいいことだが、正則の場合は違う。

「そうか、その戦で危うく怪我しそうになったお前を助けたのどこの誰だったか?」

三成も正則も売り言葉に買い言葉もあって、段々と言い争いなっていく。

「なんだと、三成、今度の戦で勝負しようじゃねーか、
俺とお前どっちが先に100人切り出来るか勝負だ!!
勝ったほうが負けた方のいう事を一回聞くんだからなー」

その正則の言葉に三成も勢いもあって、承諾してしまった。




その話を聞いて清正は頭を抱えた。

「あのな、三成・・・アイツは単細胞だから相手にすんなよ」

「・・・まったく殿は素直じゃないですから」

三人は少し遠くでいつもよりテンションの高い正則の姿を見つめていた。

「それで、えらく張り切ってんのか、アイツは」

苦笑いをこぼしながら、清正は気合を入れなおした。

「三成、あまり無茶するなよ、お前ら二人の面倒をみるのも俺の役目だ」

清正はそのまま、正則のいるさらに前線へと向かった。

「羨ましいですな、殿」

その左近の言葉に三成は軽く笑みを浮かべた。

「前線もしばらくは維持できるだろう、戻るぞ、左近」

三成は左近を伴い、後方に戻った。







数時間後、大阪城で三成は今回の戦の事務処理をしながら、溜息を吐いた。

小規模な戦闘は問題もなく、勝利した。

あのあと、正則がまた敵陣に突っ込むという暴挙にでた。

しかも清正まで随行したと報告を受けたとき、三成は清正にしてやられた。と思った。

「清正め」

面倒ごとを押し付けられた腹いせに決まっている。

それよりも、正則との勝負のことの方が三成には気がかりだった。

もちろん、勝負は正則が勝ったわけだが、あれから何も言ってこないのをみると忘れているのか。

それならば、それで三成にとっては願ったり叶ったりだった。

しかし、そんな三成の願いは崩れ去った。

仕事を終え、大阪城下にある私邸、といっても仕事のためにある屋敷で貧素なものだが、

その屋敷の前に顔見知りがいた。

「正則」

「三成、悪いな、急に来ちまって」

三成は正則を伴い屋敷へと入った。

お茶と酒とわずかばかりの肴を用意し、部屋の一室に招く。

「相変わらず、質素な部屋だな」

「俺が質素にしようがお前には関係ないはずだろ、で、用件はアレだな?」

ま、そうなんだが・・・。と正則は歯切れの悪い。

温かい茶をすすりながら、そんな静かな正則を見るのは初めてだろうか。と思う。

「三成、何でも聞いてくれるんだよな?」

四角い顔がまっすぐに三成に向けられる。

「約束は約束だが、俺にできることならな」

その瞬間、正則の両腕が三成の肩をガッチリと掴んだ。

力任せに掴んだそれは三成にはめちゃくちゃ痛くて、思わず声を上げていた。

「わ、悪ぃ」

正則は少し力を緩めながらも離そうとしなかった。

「三成、俺はお前が欲しい!!」

意を決した正則が口にした言葉は三成の頭の中を反すうした。

「は? お前、悪いものでも食ったか?」

バカなのは承知していたが、一体どうしたら、そんな言葉がでるのか。

「俺は正常だ、三成、俺はお前が好きなんだ」

そういうと三成の返事を待たずに正則は三成の唇を重ねた。

正則の胸板の厚みが皮膚を通して感じてくる。

温かい、唇の感触と見た目と反する何故か優しい接吻。

「んん・・・ま、まさ・・・」

唇が少し離されるとすぐさま再び重ねられる。

今度は舌先を入れられ、絡ませる。

長く、濃厚なそれは三成の思考を真っ白にさせるには十分だった。

唇を重ねられながら、正則は三成を押し倒し、布の間から手を差し入れる。

三成の体が緊張で強張る。

ようやく、正則の唇が離されると、三成は大きく息を吸う。

その間にも正則は舌先を首筋へと移した。

「正則」

三成は正則の口元に手を当てると、そこまでだ。という。

当然、最後までやる気満々の正則はなんでだよ。と反抗した。

「一回だ」

三成の言葉に正則は理解できずにいる。

「お前、一回だけいう事を聞くといっただろ。キス一回だ」

そういいつつ、三成はキス二回もしたな。と自分でツッコむ。

正則は納得がいかないようだったが、ぐぬぬぬ。と奇声を上げると三成から離れた。

「俺はあきらめねーからな」

正則は立ち上がると、そのまま部屋を出て行った。

「バカが」

変なところが真面目な奴だ。三成はつぶやいた。

どうやら三成もまんざらでもないようで、軽く笑みをこぼしていた。





おわり